公取委は今回、フリーランスとの取引が多いアニメーション制作やゲームソフトウエア、リラクセーション、フィットネスクラブの4業種77社を調査し、半数超の45社で違反や違反が疑われる行為が見つかった。(日本経済新聞、2025年3月28日より)
上記の文章は、日本経済新聞の「フリーランス法違反で初の行政指導 アニメ制作など45社」という記事から引用したものである。
フリーランス法というのは、別名フリーランス新法とも呼ばれるもので、2024年11月1日に施行されたものである。
77社中、半数超の45社ということだから、結構な割合だ。
調査で確認された問題事例として、イラスト制作の業務委託において、納品日や報酬額を明示しないことなどが挙げられている。
フリーランスとの取引においては、口約束での発注や、契約書が存在しても報酬額が明記されていないなどはけっこうある。
フリーランス新法は、そんな口約束や報酬の未払いを防止するためにつくられた。
このニュースを読んで、自分の遠い過去の経験がふと頭のなかによみがえってきた。
僕は広告漫画制作会社をやめたあとに、大学受験用の映像教材を訪問販売する会社に入った。
求人情報には、「受験コンサルタント募集」と書かれていた。
面接は大阪営業所のマネージャーが担当してくれたのだが、僕が漫画家を目指していたり、広告漫画制作会社にいたという話題でえらく盛り上がった。
致命的に世間知らずだった僕は仕事の内容が訪問販売だということに1ミリも思い至らず、聞かれたことに答えていた。
マネージャーも「こいつはだめだ」と思ったのか、あるいは面倒だったのか、面接時間の半分をだいぶ過ぎたあたりで、唐突に仕事の内容が訪問販売だということを明かした。
その瞬間、サッと気持ちは引いたのだが、正直に言うと、ほかに行くあてがなかった。
それくらいのビジネス戦闘力だった。
そんなこんなで入社した。
そこでの壮絶な日々は語りだしたらきりがないし、本筋とは関係ないので割愛する。
僕はテレアポをし、訪問販売をしながら、訪問販売先で使う資料のイラストや、同僚の似顔絵、大阪営業所のマスコットキャラクターを描いたりしていた(今とやってること変わらんがな)。

結論からいうと、僕は2年でその会社を辞め、その後、1~2年でその会社はつぶれた。
名簿をもとにテレアポをして、訪問販売するというスタイルがとっくに限界を過ぎていた。
そのあと、某大学受験予備校に転職してある程度時間が経った僕のもとに、ある日あの大阪営業所のマネージャーから連絡がきた。
そのマネージャーは昔の部下が新しく立ち上げた医学部予備校に転職し、そこで営業部長のような役割をしているとのことだった。
話の内容としては、その医学部予備校のために僕に漫画を描いてほしい、ということだった。
できたばかりで生徒が一人もいない校舎に詳細を聞きに行った。
結果、その医学部予備校のナンバー2らしい人から報酬を「口約束で」提示され、LINEでやりとりすることになった。
当然、契約書など交わしていない。
某大学受験予備校での校舎長の仕事も多忙だったのだが、なんとか数ページの漫画を描いて納品した。
だが、報酬が払われることはなかった。
何度か督促し、そのナンバー2らしい人から「払うので口座を教えてください」と言われたので、教えもした。
ただ、それでも払われなかった。
向こうからしたら、払うに値しない作品の出来やパフォーマンスだったのかもしれない。
今振り返っても、プロフェッショナルの水準に達していなかったと思うし、相手方を一方的に悪くいいたいわけではない。
むしろ、あの経験に、僕は感謝している。
ただ、僕のこれまでの経験上、僕も含めて、絵描きには社会性が足りてなかったり、世間知らずな人が多いのは、ある程度真実だと思う。
仕事を依頼されたら、嬉しさのあまり、飛びついてしまう気持ちも痛いくらい分かる。
僕もそうだったから。
だけど、契約書を締結することや、締結したとしてもその中身を精査する冷静さは持っていて欲しい。
そうしないと、何かあった場合、ほとんどのフリーランスは泣き寝入りしか選択肢はなくなってしまう。
そんなうるさいことを言うんだったら頼まないよ、という発注元は断ってもいいと思う。
そんなこと勉強するくらいだったら、作品のクオリティを上げる時間に費やしたいんだよ、というならその道のプロに頼むのも一つの方法としてありだろう。
6月17日には、公正取引委員会が小学館と光文社に対して、フリーランス新法違反で初勧告をした。
このフリーランス新法が普及し、実効性を高めていってもらいたいと切に願う。

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